だれが決めたか、善玉悪玉 |
メディアの報道姿勢がおかしいのは言わずと知れたことだし今に始まったことではないのだが、メディア報道に流されやすい方々は、先日アメリカバージニア州で起きた事件に関する報道が好例であるから、それを参考にもういちど一緒に考えてみましょうか。報道にはこうある。事件はバージニア州で行われた≪白人至上主義者と極右≫の集会で、≪人種差別に反対する人びと≫の反対デモに、極右の若者が車で突っ込んで女性1人を轢き殺し10数人を負傷させた、というものだった。
まず始めに、南北戦争は奴隷解放を謳った合衆国のリンカーン大統領に対して、綿花栽培において奴隷を解放されたら生活が立ち行かなくなる南部の民衆が反対して起きた戦争である。結果は北軍(合衆国軍)が勝ち奴隷は解放された。しかしバージニア州出身の合衆国軍人で、結果的には南軍(南部連合)を率いた総司令官リー将軍は温厚かつ大胆な性格と云われ、その人気は高く現在までつづいており、故郷バージニア州の公園内に銅像があった。リー将軍自身は奴隷制度に反対であったのだが、故郷を救うため南軍の側で立ち上がったとされる。
ところが、現代に至りリベラル勢力によってこの像の撤去計画が浮上した。理由は、南軍といえばイコール奴隷制支持であり、その総司令官であったリー将軍を英雄として称えることは人種差別主義を助長することだ、というものだ。ここで歴史の改竄と同時にリー将軍の人格が捻じ曲げられている。それに対して白人至上主義を掲げるK・K・K(クー・クラックス・クラン)や、ネオナチと一方的に呼ばれている右派グループが、英雄像の撤去に抗議する集会を開いた。リベラルや有色人種のグループあるいは組織が大勢彼らの集会に反対してデモ行進を行い、両者のあいだで激しい衝突が起きた。メディアは右派の一部が暴徒化したとし、州知事が右派集会に解散を命じた。
解散命令が出された直後、オハイオ州から集会に参加していた20歳の右派青年が反対派グループに車で突っ込み、女性1人が死亡、20人前後の人びとを負傷させて逮捕されたのだった。白人至上主義者にとって我々黄色い日本人も差別の対象であろうから彼らを庇うわけではない。私がここで述べたいのはメディアの報道の仕方なのである。メディアはまず南軍のリー将軍を英雄視するグループを人種差別主義者と断定し始めから悪玉扱いしている。そして人種差別に反対するグループを善玉であると感じさせる文言をつかう。20歳の青年が起こした殺人は悪いことに決まっているし、痛ましい事件には違いない。だが、どちらの思想が悪で、どちらの思想が善かを、始めからメディアが決めて誘導していく報道姿勢に問題はないか。重大な犯罪を犯したのは右派青年1人である。
わが国に当て嵌めてみれば、幕末には日本各地で幕府軍と薩長軍が戦った。明治維新以降は薩長が中心の時代になったから、西郷や高杉や龍馬が英雄として崇められているが、同時に幕府側で死んでいった新撰組の近藤や土方や沖田、白虎隊なども日本人の心に遺った英雄であろう。身分制度であった徳川幕府を支持したから悪で、身分制度を廃止した明治新政府側にいたから善になるわけではない。どちらにも言い分があり、どちらもまた正義であったのだ。奴隷制を指示するなど現代では到底考えられないものだが、現代人の目で歴史を批判することのほうが私には危険思想としか思えないのである。
記憶にあるかぎり、お盆参りと靖国参拝が雨に濡れたのは初めてだ。何かがおかしくなっている。